八日目の蝉 角田光代

タイトル:八日目の蝉
著者:角田光代
出版社:中央公論新社
価格:946円
(2026/3/8 01:21時点)
あらすじ
不倫相手の家から赤ん坊を連れ出した希和子。
その子どもに「薫」という名前を与え、自らも偽名を使いながらの逃亡生活が始まる。
そんな希和子をかくまうそれぞれに事情を持った女たち。
警察や世間の目から逃れるような日々を送りながら、それでも母としての喜びを感じる希和子。
しかしそれは突然終わりを告げる。
第1章では希和子の視点で、第2章は薫の視点で物語は進みます。
まるでノンフィクションの映像のように淡々と語られる出来事は、かえって読み手の感情を揺さぶります。
何よりこの小説のすごいところは、この二人に関わる人々の心の動きまでも感じられるところです。
リアリティがありながら、どこか希望も感じさせるような、一気に読ませる一冊です。
まるで、サイレント映画のように
この小説を原作にしたドラマや映画が話題になったことで、あるワンシーンを思い出す方も多いと思います。偽りの母子が別れるシーンです。
その後も似た設定のドラマがいくつか作られましたが、いずれもこのシーンがダイジェストで流れてきます。
たいていの場合、子役の演技が涙を誘い、実は私もその場面を観ただけで胸が締めつけられます。
けれど、この小説はまるでサイレント映画のようにその場面を描きます。
まるでそこが物語のクライマックスではないと伝えているようです。
その静けさこそが、読み手の想像力を大きく揺さぶります。
希和子はその別れをどう受け入れたのでしょうか?
なぜわたしだったのか
一方で、薫は大人になった自分の言葉で、別れの場面を振り返ります。
そこから薫の視点による物語が静かに始まっていきます。
なぜわたしだったのか
小説の中で何度も繰り返される、この印象的な問いかけ。
その言葉に明確な答えはないけれど、各々が問いかけずにはいられない・・・そのたびに胸を締め付けられるような気持ちになります。
「なぜ、わたしが連れ去られたのか。」
「なぜ、わたしは子供を諦めなければいけなかったのか。」
「なぜ、わたしはこの場所で生きていかなければならないのか。」
小説ほどドラマティックではないにしても、「なぜわたしが?」と心のどこかで思った経験は、誰にでもあるはずです。
その感情を知っているからこそ、登場人物たちの痛みや迷いに寄り添い、読みながら涙してしまう自分がいました。
今、つらいあなたに読んで欲しい
『八日目の蝉』は社会問題なども交えながら、幸福とは言えない女性たちを描いています。
読んでいる間はずっと、何か喉の奥につっかえたような苦しさがありました。
ところが読み終えた後は、何とも言えない清々しい感覚でいっぱいになりました。
「なぜわたしだったのか」の問いに対する答えは見つからなくとも、
「わたしだったらどうするのか」という答えは見つかりつつある。
そういう希望を感じられる小説だからこそ、
今、つらいあなたに読んでいただきたい一冊です。
角田光代のおすすめ本
『八日目の蝉』で興味を持った方におすすめする本


- 『空中庭園』文藝春秋
連作短編小説。軽く読めると思って選んだのに、存外深くて、ちょっとモヤっとするお話です。 - 『対岸の彼女』文藝春秋
第132回直木三十五賞受賞作。女性なら同じように感じる時があったはず。リアリティのある小説です。
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※当ブログは読みやすさを優先し、敬称略させていただいております。
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